世界農業遺産、先進国では日本が初!?何が何でも残すべき15地域の伝統農業

世界農業遺産、先進国では日本が初!?何が何でも残すべき15地域の伝統農業

2023.09.15
目次
  1. 開発途上国が対象で、日本の伝統農業は対象ではなかった?
  2. 日本の伝統農業の魅力1:トキと共生する美しい風景
  3. 能登の里山・里海:旅人を魅了する自然と伝統の共生
  4. 日本の伝統農業の魅力2:茶草場農法の魅力とその継承
  5. 日本の伝統農業の魅力3:持続的農業と生態系の調和
  6. 日本の伝統農業の魅力4:クヌギ林とため池が紡ぐ農のサイクル
  7. 日本の伝統農業の魅力5:古事記や万葉にも記された長良川の鮎とその伝統
  8. 日本の伝統農業の魅力6:みなべ・田辺の梅文化とその持続的システム
  9. 宮崎県の秘境、高千穂郷・椎葉山の独自の農林業システム
  10. 日本の伝統農業の魅力7:「大崎耕土」の伝統的水管理システム
  11. 日本の伝統農業の魅力8:発祥の地が伝える人とわさびの歴史
  12. 日本の伝統農業の魅力9:傾斜が作り出す日本の農業の技と伝統
  13. 日本の伝統農業の魅力10:峡東地域の独自の果樹栽培の伝統
  14. 日本の伝統農業の魅力11:森・里・湖が紡ぐ漁業と農業の共生
  15. 日本の伝統農業の魅力12:兵庫県兵庫美方地域の持続的な農業と伝統
  16. 日本の伝統農業の魅力13:埼玉県武蔵野地域の伝統的な農業技術とその継承
  17. まとめ

日本の農業は、古くからの伝統と技術が融合した独自の方法で行われてきました。その中でも、日本の里山は、人と自然が共生する美しい風景として、多くの人々に愛されてきました。

伝統的な日本農法には、四季折々の変化を生かした独自の方法が数多く存在し、それぞれの季節に合わせた作物の選び方、土づくりの方法など、古くからの知恵が詰まっています。

田植えや収穫の際には、地域の人々が集まって作業をしたり、収穫したり、作物を使った祭りや行事も多く、人々の生活や文化を豊かにしてきました。

しかし近年、伝統的な農法が失われつつあるという声も聞かれます。

そんな中、古来伝わる日本の農業が国際的な評価を受ける出来事がありました。

それは世界農業遺産の認定でした。

開発途上国が対象で、日本の伝統農業は対象ではなかった?

元々、世界農業遺産は、開発途上国の伝統的な農業を守り、未来の世代に伝えるための国連食糧農業機関(FAO)のプロジェクトとして2002年に始まったもので、先進国である日本はその対象外にあり、プロジェクトの存在すら知らない人たちがほとんどでした。

日本の里山の価値を世界に!

そんな中、世界中の伝統農業に深い知見を活用し、世界農業遺産の設立にも大きく貢献してきた国連大学の武内和彦副学長(当時)が中心となって、日本の里山を世界農業遺産に認定するという提案が行われ、農林水産省北陸農政局がこれを支持しました。

北陸地方を中心に候補地の選定が行われ、申請地として石川県の能登地域や新潟県の佐渡地域が候補として挙げられたのです。

地元住民たちに理解を求める

しかし、地域住民たちは、自分たちの生活の一部であるこれらの風景や文化が、実際に世界的な価値があるのか疑問に思う人が多かったのですが、関係者が粘り強く地域との対話を重ねて、住民たちの理解を得ることができ、申請を進めていきました。

先進国として初めての認定

そして、2011年6月に中国・北京での世界農業遺産国際フォーラムで、日本は先進国として初めて世界農業遺産の認定を受けることができました。

これにより、日本の伝統的な農法や里山の価値が、国際的に認められたと言えます。

今後は私たち一人一人が、日本の伝統的な農法や里山の価値を理解し、それらの魅力を国内外に広めていくことが求められており、地域もまた積極的に発信しやすい環境が一つ整ったと言えます。

世界農業遺産認定地域は、全世界では24カ国、77地域がこの名誉ある認定を受けています。

日本国内では15地域に増加し、国内での認知も高まっております。

そんな認定地域を一つ一つ紹介していきたいと思います。

日本の伝統農業の魅力1:トキと共生する美しい風景

[新潟県/2011年認定]

美しい風景が広がる佐渡の里山には、金山の歴史が織り成す深い物語と、現代の農業技術と自然保護の取り組みが絡み合っています。

この地の棚田は、江戸時代から続く歴史を持ち、その風景は時代を超えて多くの人々を魅了してきました。

生態系で果たすトキの重要な役割

特筆すべきは、佐渡独自の「冬期湛水」という農法です。

この農法は、冬の間に水をため、春にはその水を利用して稲を植えるというものですが、これはただの農法としてとどまらず、その真の価値は「生きものをはぐくむ農法」としての側面にあります。

トキ
トキ:新潟県佐渡市の田んぼにて

この方法により、トキという絶滅危惧種の鳥の生息環境が守られているのです。

この農法は、自然との共生を重視し、生態系の中で重要な役割を果たすトキの生息環境を守るとともに、農家の所得向上にも寄与しています。

農業に金山の歴史を絡めるストーリーを展開

佐渡市の高野宏一郎市長(当時)は、佐渡の金山で働く人々が食べるための稲が、この里山で栽培されていたことに着目し、金山の歴史と、それに関連する伝統的な農業の価値を中心にしたストーリーを形成しました。

それとともに江戸時代から続く棚田の歴史を背景に、現代の農業と自然保護の取り組みを組み合わせることで、世界農業遺産の理念にも合致する新しい農業の形が評価されたのです。

能登の里山・里海:旅人を魅了する自然と伝統の共生

[石川県/2011年認定]

能登地域は、美しい棚田やため池が広がる風景と、古き良き伝統や文化、技術が現代にまで受け継がれている稀有な地域です。

この地域は海に囲まれ、里山と里海が織り成す一体感の中で、多様な農林漁業が行われており、豊かな生物多様性の宝庫となっています。

白米千枚田
石川県輪島市にある白米千枚田

海女と独自の製塩技術がもたらす能登の里海の魅力

能登の海は、古くから海女たちが潜り、海の幸を採取してきました。

また、揚げ浜式製塩は、海水を自然の力で濃縮し、太陽の光と風で乾燥させるという、自然との調和を基にした製法です。

この製塩法は、能登の気候や風土に最適化されており、生産される塩はその風味と質の高さから、全国的にも高い評価を受けています。

能登独特の技術が今に伝わる里山の魅力

能登の農業は、人々の暮らしや文化、伝統技術と深く結びついており、輪島市の「白米千枚田」をはじめとする美しい棚田、地域特有の農産物の生産、そして伝統的な農林水産技術や工芸が今も継承されていることが挙げられます。

特に、天日で稲穂を干す「はざ干し」や輪島塗、炭焼きなど、能登独特の技術や文化が評価され、ユネスコの無形文化遺産にも認定されている「あえのこと」や「キリコ祭り」など、農村の暮らしと深く結びついた風習や文化が継承されていることも大きな魅力として認識されました。

そんな能登の独特の風景や伝統が国内外からの訪問者を魅了し、世界的に重要な価値が認められています。

日本の伝統農業の魅力2:茶草場農法の魅力とその継承

[静岡県/2013年認定]

静岡県掛川地域は、日本のお茶の中心地として知られていますが、その背後には「茶草場農法」という伝統的な農法が存在します。

この農法は、茶園の近隣に生えるススキや他の草を利用して、茶園の土壌を豊かにし、その結果として質の高いお茶を生産する方法です。

静岡県掛川市の茶畑
静岡県掛川市の茶畑

多様な生態系を守れ!

この農法の核心には、茶園の近くの草原、通称「茶草場」から刈り取った乾草を、茶園の土壌改良のために使用するという考えがあります。

この方法により、茶の品質を向上させるだけでなく、半自然の草地の生態系を維持し、多様な生物の生息地としての役割も果たしています。

特に「秋の七草」など、現在では見かけることが難しい種類の草も、この茶草場で普通に生息しています。

土壌の健康が絶品のお茶を作る

茶草場農法のもう一つの利点は、土壌の質を向上させることです。

茶草を土に混ぜ込むことで、土壌の構造が改善され、茶の栽培に適した環境が整った結果、掛川で生産されるお茶は、その風味や品質で高い評価を受けています。

伝統と革新が息づく農業

現在では、茶草場農法を実践する農家を認定する制度も始まり、この伝統を守り続ける農家が増加しているとのこと。

静岡の茶草場農法は、伝統と革新を結びつける素晴らしい例と言えるでしょう。

日本の伝統農業の魅力3:持続的農業と生態系の調和

[熊本県/2013年認定]

熊本県の阿蘇地域は、千年以上にわたる「野焼き」の伝統を持つことで知られています。

この伝統的な方法は、あか牛の飼育に必要な草資源を確保すると同時に、木の過度な繁茂を制御し、多くの絶滅危惧種を含む貴重な草原の生態系を保護しています。

阿蘇の野焼き
阿蘇の野焼き

野焼きに対する世界の理解

一見すると、草原を焼くという行為は、世界的に見ても特別なものではないかもしれません。

実際、FAOの関係者が阿蘇を訪れた際、彼らはこの伝統的な方法をすぐには評価しなかったと言われています。

熱のこもったプレゼンとPR戦術で理解促進

しかし、阿蘇の「野焼き」が持つ環境保全の意義や、地域農業、さらには都市部の住民にとっての価値を理解してもらうため、副知事をはじめとする関係者がFAOへと足を運び、世界農業遺産国際会議で情熱的なプレゼンテーションを行うことで、阿蘇の「野焼き」が持つ環境と農業、そして人々の生活に対する重要性を伝えました。

その結果、阿蘇の持続的な農業と草原の維持方法は、世界農業遺産としての認定を受けることができたのです。

地域の伝統と誇り、そして官民一体となった連携と信念が、先人が培ってきた持続可能な農業と生態系の保全に世界的な注目を集めるきっかけになったのです。

日本の伝統農業の魅力4:クヌギ林とため池が紡ぐ農のサイクル

[大分県/2013年認定]

国東半島・宇佐、大分県のこの地域は、ただの美しい風景にとどまらず、日本最大のクヌギ林が広がり、その木々の間で日本一と称される原木乾しいたけの生産が行われています。

この地域の農業は、単なる生産活動ではなく、自然との調和と共生を追求する哲学が息づいています。

15年で再生されるクヌギと水田がある風景

クヌギの木は、一度伐採されると、約15年というサイクルで自然に再生します。

この循環的な利用法は、持続可能な農業の実践として、また生態系の保全という観点からも非常に価値が高いと言えるでしょう。

自然のリズムに合わせて農業を行うことで、次世代にも豊かな環境を残すことができます。

畳の材料シチトウイの栽培

さらに、この地域には中世から続く水田の風景が広がり、畳の材料として知られるシチトウイも栽培されております。

これらの資源は、国東半島・宇佐の伝統的な風景や豊かな文化と歴史を物語っており、観光活動に加えて新しい体験プログラムや講座を提供することで、訪問者の満足度を一層高める計画中です。

これら循環型農業の維持と強化を目指し、官民が連携した活動も注目を集めています。

日本の伝統農業の魅力5:古事記や万葉にも記された長良川の鮎とその伝統

[岐阜県/2015年認定]

岐阜県に流れる長良川は、漁業者や地域の住民たちの手によって丁寧に守られており、水源林の育成や河川の清掃活動は長良川が持つ豊かな生態系を維持しつつ、次世代へとその美しさを引き継ぐための取り組みとして続けられています。

長良川の代名詞「鵜飼漁」と絶品鮎料理

長良川の鮎は、この川のアイデンティティとして際立った存在です。

鮎漁は、古くからの伝統的な技法を用いて行われており、その中でも「鵜飼漁」は自然と人との共生の美しさを感じさせてくれるとともに、観光客を魅了する風物詩として愛されており、その新鮮さと風味を活かした鮎料理として楽しまれています。

長良川の鵜飼い
岐阜県長良川の鵜飼い
アユ料理
鮎料理

地域の人々によって育てられた文化

岐阜県の自然、文化、伝統を形成する中心的な役割を果たしている鮎と長良川の関係は、地域の人々の努力によって築かれてきたものであり、次の世代に伝えていくようこれからも注目していけたらと思います。

日本の伝統農業の魅力6:みなべ・田辺の梅文化とその持続的システム

[和歌山県/2015年認定]

和歌山県のみなべ・田辺地域は、一見すると養分に乏しい斜面が続く土地ですが、地域住民の知恵と努力により、高品質な梅林やウバメガシの薪炭林が広がり、水源の保全や土砂崩れの防止などの役割を果たしています。

斜面を彩る梅の風景と産業

一方、斜面には美しい梅林も広がっており、地域の人々はこれを利用して質の高い梅の栽培を行っています。

みなべ町の梅林
和歌山県みなべ町の梅林

事実、地域の労働者の約7割が梅関連の産業に従事しており、梅はこの地域の経済や文化、生活を大きく支えています。

伝統と新しい価値の融合

この地域の取り組みは、自然と人々の共生を基盤とし、伝統と新しい取り組みが融合した持続可能な農業のモデルとして、新しい価値や技術を取り入れて進化しており、次世代にも示すべき価値が多分に見つけることができるはずです。

宮崎県の秘境、高千穂郷・椎葉山の独自の農林業システム

[宮崎県 /2015年認定]

宮崎県の高千穂郷・椎葉山地域は、壮大な山々に囲まれた美しい風景が広がる場所ですが、平地が少なく、生活のための資源を得るのは容易ではありません。

しかし、この地域の人々は、長い歴史の中で独自の農林業システムを築き上げてきました。

豊かな土壌と伝統が織りなす多様な農林業

この地域の森林は、針葉樹と広葉樹の両方からの恵みを受け取っており、針葉樹は、木材としての価値が高く、広葉樹はシイタケの生産に欠かせない資源として利用されています。

土壌は、和牛の飼育やお茶の栽培に適しており、限られた平地を最大限に活用するため、棚田での稲作や焼畑といった伝統的な農法も続けられています。

日本三大神楽に数えられる高千穂神楽

高千穂神楽
高千穂神楽

この地域のもう一つの魅力「神楽」は、五穀豊穣を願う神事として、長い歴史を持っています。

各集落で行われる神楽は、地域の人々の絆を強め、次世代へと伝統を継承すると同時に地域が誇る芸能コンテンツとして全国的に認知されています。

これらの取り組みは、自然との共生を目指す私たちにとって、大きな学びとなることでしょう。

日本の伝統農業の魅力7:「大崎耕土」の伝統的水管理システム

[宮城県/2017年認定]

大崎地域、具体的には大崎市や涌谷町、美里町、加美町、色麻町といったエリアは、江合川や鳴瀬川の流域に点在する野谷地や湿地を巧みに利用し、水田農業の中心地としての地位を築き上げ、世界農業遺産および日本農業遺産の称号を獲得しています。

厳しい自然を知恵で克服した奇跡の水田農業

しかし、その発展の背景には、数々の自然の困難が存在しています。

特に、東北地方の太平洋側に特有の「やませ」という冷たく湿った季節風が、稲作にとっての大きな敵となっている上、地形的な特性からくる洪水や渇水のリスクも常に伴っています。

これらの厳しい自然環境を独自の知恵や技術を磨き、乗り越えてきました。

「水」の調整技術と「大崎耕土」

この地域の農家たちは、水の供給や排水のタイミングを最適化するためのさまざまな工夫を行い、それによって稲作を成功させてきました。

そして、その結果として生まれたのが、「大崎耕土」と呼ばれる肥沃な土地です。

大崎耕土
大崎耕土

大崎地域の水田農業は、自然の困難を乗り越えるための知恵や技術の結晶であり、その中心にある「大崎耕土」は、持続可能な農業のシンボルとして、私たちに多くの教訓を提供してくれています。

日本の伝統農業の魅力8:発祥の地が伝える人とわさびの歴史

[静岡県/2018年認定]

わさびは日本独特の香辛料であり日本料理に欠かせない存在です。

静岡県は、わさびの発祥の地として知られ、その伝統的な栽培方法は日本の農業の宝として語り継がれています。

この地域の清冽(せいれつ)な水源は、水わさび栽培に最適な環境で、わさび農家たちは世代を超えて継承してきました。

厳しい条件をクリアし守り続けた日本独自の味

葵区有東木地域は、『わさび栽培発祥の地』として、400年前の江戸時代初期から続く歴史的があり、山の斜面を利用して階段状に開墾された「わさび田」は自然の湧水の養分を最大限に活用し、化学肥料や農薬に頼らないことで高品質なわさびを生産する独自の技術を生み出しました。

わさび田
静岡市葵区有東木のわさび田

自然と調和し、持続可能な環境も評価

明治時代には、「畳石式」という栽培方法が開発され、これによりわさびの生産量が大幅に増加し、わさびの成長を助けるヤマハンノキとともに、わさび田の風景は静岡の特色ある景観を形成しています。

同時にハコネサンショウウオなどの希少生物にとっても貴重な生息地となっており、地域の歴史、文化、そして自然との共生を象徴した単なる農地以上の価値を持っています。

日本の伝統農業の魅力9:傾斜が作り出す日本の農業の技と伝統

[徳島県/2018年認定]

にし阿波地域は、その独特の地形と気候を持つ地域であり、ここでの農業は長い歴史と伝統を持つ傾斜地農耕システムによって支えられています。

傾斜を利用して生産された豊かな食物

にし阿波地域では、この方法を用いて、稲や野菜、果物などの多種多様な作物を栽培しています。

このシステムの最大の特徴は、土地の特性を最大限に活かしながら、土壌の浸食や土砂崩れを防ぐ工夫がされている点です。

この地域の農家たちは、世代を超えてこの技術を継承し、日々の農作業を通じて、自然との共生を実現しています。

美しい風景と生態系を守る取り組み

また、この傾斜地農耕システムは、地域の風景や生態系の保全にも大きく寄与しており、にし阿波の美しい風景を形成しています。

日本の伝統農業の魅力10:峡東地域の独自の果樹栽培の伝統

[山梨県/2022年認定]

峡東地域は、ブドウの発祥地として知られ「甲州」は平安時代からの栽培が伝えられており、多くの独自技術を持つ地域です。

ブドウの安定生産を実現させる「甲州式棚と疎植・大木仕立て」

日本の湿潤気候に適応するために開発された「甲州式棚と疎植・大木仕立て」は、ブドウの安定生産のための基盤となっており、現在も全国のブドウ農家に広く採用されています。

また、日本人の繊細な味覚や果実の美しさを求める文化背景から、ブドウやモモなどの果実の生産には、高度な手作業による栽培技術が発展してきました。

これにより、峡東地域の果実はその品質と美しさで高く評価されています。

さまざまな工夫で自然と共生する豊かな土壌

峡東地域の住民は、過去の災害経験を背景に、地域の森林や水源を守るための取り組みを続けてきました。

明治天皇の「恩賜林」の下賜を受けて以降、地域住民が組織を形成し、森林の保護活動を行っており、地域の安定した生活基盤を築く要因となっています。

また、扇状地の特性上、水の確保が難しい峡東地域では、古くから堰と呼ばれる水路が利用されてきました。

この水路の維持・管理活動は、地域住民の連携を強化し、果樹農業の継続的な発展を支えてきました。

これらの取り組みと技術、伝統が評価され、峡東地域は世界農業遺産としての認定を受けています。

日本の伝統農業の魅力11:森・里・湖が紡ぐ漁業と農業の共生

[滋賀県/2022年認定]

滋賀県の琵琶湖地域は、壮大な山々に囲まれ、その山から流れる460本以上の河川が、豊かな水田を潤し、最終的に琵琶湖へと注ぎ込む、自然の循環システムを持つ地域です。この地域は、1000年以上の歴史を持つ伝統的な「エリ漁」や、湖魚の産卵・繁殖の場となる「魚のゆりかご水田」、そして地域の食文化や祭礼と深く結びついた生活様式を持っています。

琵琶湖
琵琶湖のエリ漁

地域との連携で実現する「魚のゆりかご水田」

特に、「魚のゆりかご水田」は、近代化の影響で魚が遡上しにくくなった環境を、地域住民や学生、企業との連携で再生し、湖魚の生息環境を再構築するプロジェクトです。

この取り組みは、生物多様性の保全だけでなく、地域活性化や環境教育の面でも大きな効果をもたらしています。

京阪神の水瓶を地域ぐるみで保全

さらに、琵琶湖は京阪神の1450万人にとっての貴重な水源であり、その保全は極めて重要です。この地域では、持続可能な農業を推進するための「みどりの食料システム戦略」を基に、オーガニック農業への転換を進めています。

生産者、消費者、企業、そして次世代の子供たちとともに、この持続可能なシステムを守り、発展させていくことが私たちの使命です。

日本の伝統農業の魅力12:兵庫県兵庫美方地域の持続的な農業と伝統

[兵庫県/2023年認定]

兵庫県の美方地域は和牛の改良の先駆けとして知られ、100年を超えるその独特な但馬牛の飼育システムが世界農業遺産に認定されたことで、長い歴史を持ちながらも環境や社会の変化に適応し、伝統的な農業や風景を維持・発展させてきたこの地域に一気に注目が集まりました。

和牛絶滅の危機を救った奇跡

美方地域、特に香美町と新温泉町は、名高い神戸ビーフや松阪牛のルーツとなる但馬牛の飼育において、日本で初めての牛の血統登録「牛籍簿」が整備され、但馬牛の品質向上とその継承に大きく貢献してきました。

明治時代の後半、日本の牛の改良を目指して外国種の雄牛を輸入し交配を試みるも、交配後の牛の食欲は旺盛で気性は荒く、狭い田んぼでの作業には全く適さず、病気の発生や肉質の低下といった問題も生じた結果、交配は失敗に終わりました。

かつての素晴らしい但馬牛の血統を取り戻すための探索が始まり、その結果、兵庫県美方地域の小代に位置する隠れた集落「熱田」で、純粋な但馬牛の血統が奇跡的に発見されたのです。

この血統からは、後に「田尻号」として名を馳せる伝説の名牛が誕生したのでした。

牛の堆肥と稲作の持続可能なサイクル

但馬牛の排泄物を堆肥として利用し、稲作を行うという環境に優しいサイクルが実践されています。

これらの循環が認定によって脚光をあび、但馬牛のブランド価値をさらに高めるだけでなく、地域の経済や観光の活性化にも寄与することが期待されています。

日本の伝統農業の魅力13:埼玉県武蔵野地域の伝統的な農業技術とその継承

[埼玉県/2023年認定]

武蔵野地域は、火山灰土の厳しい土壌条件の中で、江戸時代の人口の増加を背景に、特徴的な短冊形の地割りで開発されました。

屋敷地、畑地、そして平地林が独自の役割

武蔵野地域は、江戸時代から独自の農法を継承してきました。

この地は、1654年に川越藩の開拓活動が始まった場所で、急激な人口増加に伴う食糧問題を解決するための策として、平地林を育てることで土壌改良を試みられ、木々の落ち葉を堆肥として利用し、風による土壌の飛散を防ぐという二重の効果を持つこの方法は、持続可能な農業の実現に貢献してきました。

元々栄養分に乏しい土地を、豊かな畑地へと変容させる技術として開発されたこの農法は、現代においても武蔵野地域で続けられており、落ち葉堆肥の活用を核とした持続的な農業が行われています。

痩せた土地を生物多様性に富む豊かな土地へ

さらに、この地域の平地林は、生態系の保護にも一役買っていて、オオタカの繁殖地として、またシュンランやキンランといった希少植物の生育地として生物多様性の維持にも寄与しています。

武蔵野の落ち葉堆肥農法は自然との共生を示す貴重な事例として、大都市の近郊においてもその価値を今なお放っています。

まとめ

また、日本の伝統的な農法は、自然との共生を重視し自然の恵みを最大限に活用すると同時に環境を守る方法を追求してきました。

これにより、土壌の健康を保ちながら、豊かな収穫を得ることができます。

しかし、近年、伝統的な農法が失われつつあるという声も聞かれます。

今後、日本の農業がさらに発展するためには、伝統的な農法の魅力を再認識し、新しい技術や方法との融合を図ることが重要です。

古くからの知恵と新しい技術が融合することで、より持続可能で豊かな農業を実現させることが求められます。

この記事の監修者
名木イサム
名木 イサム
淡路島の農家の長男。舞台俳優として国内外の公演に参加。「藝術」の「藝」は「種を蒔き育てる」の意味で、「カルチャー」は「耕す」を意味するラテン語が語源だからして現在、実家でアグリカルチャー(農業)に向き合いながら執筆活動を展開中。