1. はじめに
どんな産業にも専用の道具があるように、農業にも専用の道具があり、これを「農具」と呼びます。農具は、人が効率よく農業を行うために進化してきたもので、それぞれ独特の形があります。
この記事では、農具の種類と使い方について詳しく解説します。
2. 農具の種類
農具は大別すると3種類に分けられます。順を追って解説します。
手動農具
人が手に持って人力で動かすもので、鍬(くわ)、鋤(すき)、鎌(かま)などがあります。
動力を使った農具
電気やガソリン等の燃料を使った農具で、刈払機、チェーンソーなど手に持つものから、脱穀機や精米器など据え置き型の農具があります。
大型農具
人が乗って動かす大型の農具で、トラクター、コンバイン、田植機などが代表的です。
3. 手動農具
鍬
鍬(くわ)は地面を掘り起こす農具で、何種類かに分けられます。棒状の柄の先端に金具がついており、その角度は備中鍬や唐鍬では90度前後ですが、平鍬では45度ほどになります。
備中鍬
フォークのように3本に別れた構造で、振り下ろして地面に突き立て、手前に引き地面を掘り起こします。「三本鍬」とも呼ばれます。
固い土を砕くのに向いており、大型機械がなかった時代の山林開拓、田植え前の水田を掘り起こすのに使用しました。
現代でも、田畑の面積が小さいとき、土を砕くのに使用します。
唐鍬
備中鍬を1枚の鉄板にした構造で、地面に突き立てて土を掘り返します。備中鍬より一度に多くの土をすくうことができ、畑や山林開拓に幅広く使用されます。
たけのこを掘るのにも便利です。
先端が丸いものは「とんび鍬」と呼ばれます。
平鍬
唐鍬より薄く長い鉄板でできており、一度に多くの土を掬い上げるのに向いています。そのため、畑に野菜の種をまくときに細長く土を掘ったり、畝(うね:畑で作物を作るため、直線上に細長く盛り上げた部分)に土寄せをしたりするのに向いています。
また平らな底面を利用し、水田の畦塗りをするのに便利です。
錆びないようにステンレス製の平鍬もあります。
鋤
(すき)は、船をごくときの櫂(かい)に似た形をした農具ですが、今日「鋤」と呼ばれているものは鍬であることが多く、また同じ道具でも地方によって鍬と呼んだり鋤と呼んだりすることがあります。
鎌
草や芝、稲などを刈るのに使います。
刃がプレーンな「刃鎌」、のこぎり状のギザギザがついた「鋸鎌」があり、それぞれ大きさもバリエーションがあります。最も一般的なのは刃鎌の一種である草刈鎌で、丸い断面の柄の先端に、湾曲した三日月状の刃がついています。
切れ味を高めるため、球の一部を切り取ったような三次元の形をしている鎌が多いです。そのため右利き用に作られている鎌を左手に持ち替えても上手く切れません。
大型の鎌は、人の身長に近い長い柄でできており、立った状態で使用します。湾曲度の高い刃は、群生する背の高い雑草などを引き寄せながら効率よく刈るためのものです。
今ではあまり見られなくなった手動農具
次に、機械の普及や耕作スタイルの変化により、今ではあまり見かけなくなった手動農具をご紹介します。昭和中期までは目にしたもので、いずれも人間の知恵と工夫が感じられる興味深い形をしています。
水田中耕除草機
水田中耕除草機(すいでんちゅうこうじょそうき)
田植えした後、水田に生えてくる雑草を取るための農具です。長い2本の柄の先に舟形の囲いがあり、中には回転する鍬状の歯車が前後に2つついています。人力で押したり引いたりして、水中の草を根ごとはぎ取ることで除草します。
犂
犂(すき)は、トラクターが普及する前、牛馬で田畑を耕していた時代に使われていました。
牛馬の後部に牽引させる形で犂をロープでつなぎ、彼らを歩かせます。犂には進行方向に対し約45度外を向いた刃があり、自重で地面に食い込んだ刃が地面を掘ります。掘り起こされた土は、斜めに傾いた刃の効果で横に堆積します。
英語では「プラウ」と呼ばれ、古代エジプトでも使われていた歴史の古い農具のひとつです。
箕
箕(み)は、籠の囲いの一部を平らに開放した、アルファベットの「D」に近い形状をしています。穀物を脱穀したあと、実と殻を選別するための農具で、両手で持って上下にふるい、軽い殻を吹き飛ばします。軽いことが求められるため、材質は軽い竹製が多くなっています。
他に見かけなくなった農具では脱穀用が多く、「千歯抜き」、「木製脱穀機」や「唐箕(とうみ)」、「ゆすり板」、「万石通し(まんごくとおし)」などがあります。これら種類の多さから、種まきから収穫の過程において、人は脱穀に最も苦労してきたのかもしれません。
4. 動力を使った農具
ここでは、稲作中心に、人が乗って使う大型農具意外の農具について解説します。対象は、大型農具が開発される前の、あるいは狭い農地に適した手押し式農具となります。
管理機
ガソリンやカセットガスを燃料とし、エンジンを載せたフレームに耕耘用ロータリーを連結した農具です。「歩行型トラクター」と呼ばれることもあり、家庭菜園用に開発された小型のタイプもあります。
アタッチメント(目的に応じた作業機)をつけ替えることで、畝立て、整地、除草、播種、マルチ張り、農薬散布、収穫作業などができます。
なお、大型の管理機とも言える存在として耕耘(こううん)機がありますが、両者の境界はあいまいです。大型で、耕耘という目的に特化したのが耕耘機と思えばいいでしょう。
田植機
専用の育苗箱(いくびょうばこ)で育てた苗を専用台に載せ、機械のアーム先端の爪が苗を摘み取って植える機械です。代掻きしたあとの水田で使うため軽量に作られています。手押し式のものは2条植えが限界で、3条植え以上は大型の乗用タイプとなります。
バインダー
バインダー(Binder)は、直訳すれば「結束するもの、機械」という意味で、手押し式の稲刈機を指します。ガソリンエンジンを搭載し、バリカン型の刃を左右に動かすことで稲を刈り取り、専用の麻縄で自動結束・排出します。
ただし機械が行うのはそこまでで、稲の乾燥や脱穀は別途行わなければなりません。
籾乾燥機
現在主流なのは「立型乾燥機」で、籾(もみ)をホッパーに入れるとコンベアでタンク上部に運ばれ、内部で循環したあと下から取り出します。その間穀物は灯油など燃料を燃やして発生させた遠赤外線で乾燥させます。
農業機械としては耐久性が高く、長寿命です。
籾すり機
籾すり機は、脱穀した籾を玄米にするため、籾殻を取り除く機械です。回転差のある2つのロール間を通過させるゴムロール式、羽根車(インペラ)で籾を衝突させるインペラ式、インペラ式を改良したジェット式などがあります。
精米機
玄米を白米にする機械で、精米の過程では糠(ぬか)が発生します。方法には循環式、撹拌式、研磨式などがあり、業務用の大きなものから家庭用の小さいものまであります。
郊外にコイン型精米器があるのを見かけることも多いです。
米を玄米のまま食べる「玄米食」もありますが、一般的には消化と味をよくするために精米した米が好まれます。
その他
稲作を中心に解説しましたが、動力を使った農具には他にもたくさんの種類があります。
例えば水田耕作にかかわる農具で言えば、水田の畦(あぜ=水田を囲む土壁)を作る【畦塗り機】があります。それから、農地の草を刈る【自走式草刈機】や【刈払機】、農薬を散布する【動力噴霧機農】などもあげられます。
畑作について言えば、じゃがいもやトウモロコシなど、特定の収穫物用に開発された農機具もあり、知るほどに種類の多さと独創のメカニズムに驚かされます。
5. 大型農具
トラクターやコンバインなど、エンジンを積んで四輪(またはそれ以上)の車輪というレイアウトで、人が乗って操縦する農機具をいいます。
トラクター
農業を行ううえで最も重要な機器の一つで、畑から水田まで、多くの用途に使うことができます。管理機や耕耘機と同様、アタッチメントを変えることで畝立や整地、農薬や肥料散布、除草、マルチ張り、収穫物の運搬などができます。
代表的なメーカーは、国産ではクボタ、ヤンマー、ヰセキ、三菱マヒンドラなどで、海外メーカーとしてはジョンディア、ニューホランド、マッセイ・ファーガソンなどがあげられます。
トラクター選びは、農業経営にあたって根幹にかかわる選択です。メーカー、馬力、車体の大きさ、機能など、迷ったときは信頼できる販売店に相談するのがベストです。
コンバイン
コンバイン(combine)とは、「結びつける、組み合わせる」という意味の英語で、穀物の収穫や脱穀、選別を行う機械です。「コンバインハーベスター」と呼ばれることもあります。
自脱(自動脱穀)式機能を備えており、水田の稲作なら刈り取りから脱穀まで一貫して行います。
ハーベスター
ハーベスターは、バインダーなどで刈り取った稲を、移動しながら脱穀する農業機械です。
コンバインでは刈り取った稲を自動脱穀してくれますが、ハーベスターでは人力の介入が必要です。その点で、狭小農地で使われることが多いと言えます。
ハンマーナイフモア
大型の草刈機で、専用の自走式タイプ、トラクターに装着するタイプがあります。高速回転する刃で雑草を刈り、草はチップ状に粉砕しますので後処理がありません。
オーレック、やまびこ、ヰセキなどのメーカーがあり、馬力や対応面積などバリエーションがあります。刃は、地面と平行に横回転するタイプと、地面に対して直角に回転(縦回転)するタイプがあります。
自走式の大型のものはタイヤに三角形の凹凸があり、地面をしっかり捉えて草を刈りますので、斜面やうねりのある場所でも使用できます。
大規模農業をする場合や、耕作放棄地を開墾する場合などには非常に役に立つ機械です。
その他の大型機械
その他の大型機械としては、運搬に特化した機能を持つフォークリフト、特定の作物収穫専用の収穫期などがあります。
後者の具体例としては、とうもろこし、ばれいしょ(じゃがいも)、ビート、さとうきび、落花生などの収穫期があります。また、サツマイモや玉ネギの掘取機などもあり、数えていくと実に多種多様な大型機械があります。
6. まとめ
農具は、農業の生産効率を高めるために発明され、改良を重ねて今日まできました。
焼き畑農業で地面をかき回す「こん棒」は、ごく初期の農具であると考えることができます。その後、牛や馬などの家畜を利用し、さらにはガソリンやガスなどの動力を使って生産性は向上してきました。
そして大型農機具の登場によって、農業の生産性は飛躍的に向上したと言えます。水田での稲作をはじめ、畑作でのさまざまな穀物・野菜の収穫において、大型機械は作業効率と収穫量に革命的進歩をもたらしました。
と同時に、あまりクローズアップされることはありませんが、農機具の発達は農業従事者の肉体的負荷を大きく軽減しました。例えば稲作では、田植えのときも稲刈りのときも、手作業による人力では下を向くため、特に腰に多大な負担がかかります。乗用の大型機械が農業従事者の腰への負荷を大きく軽減したことは、生産性を上げたのと同じぐらい優れた功績と言えます。
今後の農機具のあり方として、今「スマート農業」が注目されています。
例えば、農場の「リモート管理」、農機具の「GPS自動操舵システム」などで、今後ITやAIが進化するにつれ、農機具の形態や使い方も変わっていくことが予想されています。
- この記事の監修者