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農林漁業者が生産物の価値を高めることで所得を向上させる取り組みである「6次産業」と言う言葉は、生産だけでなく、食品加工や販売も含めて取り組み、農林水産業の活性化と農山漁村の経済の豊かさを目指しています。
この「6」という数字は、1次産業(農林漁業)×2次産業(食品加工)×3次産業(販売業・サービス業)をかけ合わせたもので、東京大学の今村奈良臣先生が提唱した造語から来ています。
直売所は、農林水産業の6次産業化の先駆けとして、地域の経済活動を活性化させる役割を果たしており、これは単に生産者の利益を増やすだけでなく地域農業の振興や新しい雇用の創出にも寄与しています。
消費者が直売所の魅力に気づき始め、人気は高まりをみせ、現在では国内農産物流通の一部を担うほどの規模に成長しています。
特に生鮮青果物の流通においては、消費者の地域・環境・健康への関心の拡大と、生産者の環境保全型農法などの取り組みが進んでいるものの、従来の卸売市場を通した流通ではこれらの情報が正確に伝わらない問題があったことで直売型流通に注目が集まり、青果物の卸売市場経由率は低下して直売所に流れることになりました。
特に、消費者を組織化した生協産直や生産者を組織化した直売所は、消費者と生産者の距離を縮めることができる場で、情報伝達のしづらさを直接対話することで解消する強みを持っています。
地元の農家が生産した新鮮で美味しい農産物を手に入れることができることで、農家との直接のつながりを感じ、消費者の農業理解の深化も期待されています。
また、直売所は単なる農産物の販売場所であるだけでなく、生産者と消費者が直接コミュニケーションを取る場としての役割も果たしています。
そんな直売所の存在意義と、注目を集める要素について考察してみたいと思います。
直売所の持つ場の魅力と成功する12の要素
近年、都市部に暮らす人々の多くが新鮮さや安全性の高い農産物の魅力に目覚め、週末を利用して農村を訪れるようになりました。
その背景には、農産物の直売所という比較的新しい取り組みがあります。
直売所は、農家が自らの手で生産した新鮮な農産物を、消費者に直接販売する場所としていかに定着し、都市と農村をつなぐ役割を果たしているのでしょうか?
そして、なぜこの直売所がこれほどまでに人々の心をつかんでいるのでしょうか?
直売所が持つ魅力や実際の取り組みについて解説していきます。
1. 安心安全な農産物と出会える場
スーパーや市場で販売されている農産物は、収穫後数日から数週間経過していることも少なくありません。
しかし直売所は中間業者を介さずに、農家が自らの手で生産した新鮮な農産物を消費者に直接販売する場所なので、生産者と消費者が直接顔を合わせることができるのが最大の魅力です。
そのため、消費者は新鮮で安全な農産物を手に入れることができ、生産者は適正な価格で商品を販売することができます。
2. 新鮮さは野菜本来の味を楽しめる場
直売所で販売されている農産物は、その日の朝、あるいは前日に収穫されたものがほとんどです。
そのため、直売所の売り場に並んでいる農作物の風味や栄養価が高く、食べた瞬間にその違いを実感することができます。
3. 食の安全性が確認できる場
農薬や化学肥料の使用に対する懸念が高まってきている社会的背景もあり、直売所では生産者が自らの顔を出して商品を販売しているため、消費者は生産者に直接、農薬や肥料の使用方法、収穫方法などを質問することができることができるのも魅力だと感じる人が増えています。
このような直接のコミュニケーションが、安心で安全な食生活を送りたいと考えている人たちを惹きつけるのです。
4. 地域経済を支える場
都市部の消費者が直売所を訪れることで、農村の生産者は適正な価格で商品を販売することができ、その収益は地域の経済を支えることに繋がります。
また、直売所を訪れる消費者は、農産物の購入だけでなく、地域の観光地を訪れたり特産品を購入したりすることも多く、これもまた地域の経済を活性化させる要因となっています。
5. 都市と農村が交流できる場
都市部の人々は、直売所を訪れることで、農村の生活や文化を知ることができます。
そこでは、生産者の思いや声を直接聞くことができ、新鮮な作物の味と共に、生産者の顔や声、農産物の背景にあるストーリーなど、直売所だからこそ知り得る情報や感じること、都会にはない農村の健康的な生活を知ることや産地ならではの体験が、都市部の人々に食を通した新しい価値を提供しています。
このような交流を通じて、都市と農村が互いに支え合い、共生する関係が築かれているのです。
6. 季節を感じることができる場
スーパーや市場では、一年中同じ農産物が販売されていることが多いですが、直売所では、その時期に収穫される旬の農産物が販売されています。
そのため、直売所を訪れることで、季節の移り変わりや自然の恵みを感じることができます。
7. 農村に新しい価値観をもたらす場
農村の人々は都市部の人々との交流を通じて得た情報が、新しい価値観につながる可能性があります。
このような交流を通じて、都市と農村が互いに理解し、支え合う関係が築かれ、閉鎖的になりがちな農村部に暮らす人たちの考えがより開かれたものになってくることになります。
8. 農村教育の場
都市部の子どもたちにとって、農産物はスーパーの棚に並ぶものという認識が一般的ですが、直売所を訪れることで、食材がどのようにして生産され、収穫されるのかを学ぶことができます。
実際に農家の方々と触れ合い、農業の大変さや魅力を直接体験することで、食に対する理解や感謝の気持ちが深まる「教育の場」としての機能も果たすことになりえます。
9. 新ビジネス発掘の場
例えば、農産物だけでなく、農村の伝統工芸品や観光サービスなど、多岐にわたる商品やサービスが提供されることで、都市部の消費者に新しい価値を提供することができます。
また、農村の資源や技術を活用した新しい商品開発や、都市部の企業とのコラボレーションも期待されており、「新しいビジネスモデルの発掘」の場としても期待されています。
10.地域が活性化する楽しめる場
直売所を中心に、地域のイベントやワークショップが開催されることで、都市部の人々と農村の人々が一緒になって楽しむことができる場が増えるでしょう。
これにより、都市と農村の間の交流が深まり、新しいコミュニティが形成されることで、直売所は「地域コミュニティの活性化」のキーポイントとなる可能性があります。
11.環境保護を考える場
持続可能な農業の普及や、地域の環境保護活動の中心として、都市部の人々に環境問題への意識を高めるきっかけを提供することが期待されています。
そのことからも「環境保護の拠点」としての役割を担っていると言えるでしょう。
12.都市と農村が協力できる場
「都市と農村の新たな協力の形」を生み出す場となるでしょう。
伝統的な農業だけでなく、テクノロジーを活用したスマート農業や、都市部のノウハウを取り入れた新しい農業スタイルが生まれることで、都市と農村が共に発展していく未来が描かれています。
直売所の魅力を引き出す運営主体とその多様性
直売所の運営主体は多岐にわたります。
農協やその組合員(女性部、青年部など)、第3セクター、任意団体などが含まれます。
これらの運営主体によって、直売所の運営方法や提供する農産物の特色も異なります。
具体的な事例として、以下のようなものが挙げられます:
1. JAのファーマーズマーケット
JAが直売所を開設し、登録された農家からの農産物を受け取り、販売する形態で毎朝採れたての野菜や果物が並べられていて、鮮度が高い商品は味も格段に良く、消費者は季節ごとの「旬」の味を楽しむことができます。
新鮮さが魅力
地元の農家が朝一番に商品を運び込むためで、売れ残りはその日のうちに回収されるため、常に新鮮な商品が提供されています。
安全・安心な農産物
生産者の名前が記載されていることは、商品の安全性や品質に自信を持っている証であり、消費者は生産者の顔や名前を知ることで、より安心して商品を購入することができます。また、直接生産者との交流の機会もあり、商品の選び方やおすすめの食べ方などの情報を直接聞くことができるのも大きな特徴です。
多様な選択肢
JAのファーマーズマーケットには、一般的な量販店では見かけない珍しい野菜や果物が豊富に取り揃えられており、たとえばトマトやカボチャといった一般的な野菜でも、形や色、味の異なる多くの種類が展示されています。これは、各農家が消費者のニーズに合わせて独自の作物を生産しているためです。消費者は、これらの多様な商品の中から自分の好みに合ったものを選ぶ楽しさを味わうことができます。
2. エコファーマーの取り組み
エコファーマーが生産した野菜の大部分をJAの直売所や量販店に出荷し、一部を学校給食に提供する形態で、地域の消費者と直接つながり、安全で高品質な農産物を提供することで、地域経済の活性化にも寄与します。
有機農業の実践
化学肥料や農薬を使用せず、自然の力を最大限に活用して農作物を栽培します。土壌の健康を維持・向上させることで、作物の栄養価も高まります。
循環型農業の推進
作物の残りや動物の排泄物を堆肥として再利用することで、資源の無駄を減らし、土壌の肥沃さを保ちます。
多様な作物の栽培
一つの土地で多様な作物を栽培することで、土壌の疲弊を防ぎ、病害虫の発生を抑えます。
3. 道の駅の概要
「道の駅」は、日本の各地方自治体と道路管理者が協力して設置される施設で、国土交通省によって正式に登録されており、単なる休憩所ではなく、商業施設、休憩・宿泊施設、そして地域振興施設などが一体となった複合的な存在です。
2020年3月時点で、全国には1,173箇所の道の駅が存在しており、その数は年々増加の一途を辿っています。
地域の特色を活かした販売
地域の文化や名所、特産物を活かした農産物直売所が設けられているので、その地域ならではの新鮮な農産物を購入することができます。
生産者から直接購入できる
生産者と消費者が直接顔を合わせることで、新鮮さや安全性、そして生産背景を知ることができます。
道の駅の運営体制
道の駅やその中の農産物直売所の運営には、特定の組合や生産者組織が関与しています。農産物を道の駅で販売したい場合、多くの施設ではこの組合や組織のメンバーとして参加することが求められます。組合員として参加するためには、入会金を支払う必要がある場合が多く、具体的な金額や参加条件は、施設や地域によって異なるため、具体的に販売を検討する際は、関連する道の駅の運営元に直接問い合わせることが推奨されます。また、商品のラベルや表示に関しては、生産者自身が用意するのが一般的です。
「関係人口」が増える直売所6つの魅力・人が集まり農村に活気をもたらす
少子高齢化の影響に対応し、人口減少を防ぎつつ、東京圏の過度な人口集中を改善する取り組みである「地方創生」は、各地域での快適な生活環境を守り、未来の活気ある日本を保持することを目的としています。
地域の活力を維持・発展させるために、地域に住む人々だけでなく、地域外の人々も含めた「関係人口」の活躍を促進することを目指しています。
そのためには都市部の人々が農村を訪れる仕組みが必要で、それらの出会いを演出する機能を担っている直売所も、関係人口の増加に大きな役割を果たしています。
では、実際に直売所が都市と農村の関係性にどのような影響をもたらしているのか考察してみたいと思います。
1. コミュニケーションで生産者と農作物への感謝の気持ち
生産者の顔や声、物語を直売所で知ることができ、「都市部の消費者と農家の直接のコミュニケーションの場」を提供しています。
生産者の人柄や農作物に対する思いに触れることで、食べ物に対する感謝や尊敬の気持ちが生まれ、食の大切さを再認識するきっかけになるとともに、消費者は「また訪れたい」と言う気になってリピーターが増えていくのです。
2. 農村の魅力を発信
都市部の人々が直売所を訪れることで、農村の風景や生活、文化を直接体験することができ「農村の魅力」を効率よく伝える役割も果たしています。
これにより、都市部の人々は農村の魅力や価値を再発見し、農村への観光や移住を検討する人も増えています。
3. 地域資源の価値を発信
農村には、伝統的な農法や特産品、神楽や祭りなど風土に根ざした芸能文化など、多くの地域資源が眠っています。
直売所を通じて、これらの地域資源が再評価され、新しい価値として都市部の消費者に提供されることで、それらに魅力を感じた人が集まり、地域の活性化に繋がっています。
4. 農業に革新をもたらすヒント
伝統的な農業だけでなく、有機農業や農薬を使用しない自然農法など、「新しい農業スタイルの提案」の場としても注目されています。
これにより、消費者は多様な農業スタイルに触れることができ、自分のライフスタイルや価値観に合った農産物を選ぶことができるので、食へのこだわりを満たすために直売所を目指します。
5. 持続可能な社会
直売所は「持続可能な社会の実現」にも貢献しています。
食のローカルサーキットを通じて、環境への負荷を減らす取り組みや、地域の持続可能な経済循環を促進する役割を果たしており、消費者と生産者が直接コミュニケーションを取ることで、互いの立場や考えを理解し、共感することによって、直売所を中心としたコミュニティーが構築されて行きます。
6. 農村への移住を促進
関係人口が増加することで生じる交流を通じて、新たな価値やイノベーションを生み出す可能性があり、地方創生の核心部分である「将来的な農村への移住者の増加」を促進する効果も期待されています。
そんな都市部の住人との交流の場として直売所が機能し、利用する人々の数や購買意欲が増加し、地域の経済活動を活性化させる効果が期待されると同時に、地域の魅力を伝えることで、さらなる関係人口の増加や移住を促進する役割を果たすことができると考えられます。
「地産地消」推進と直売所の魅力が農村の武器
「地産地消」という言葉は、近年、私たちの生活の中で頻繁に耳にするようになりました。
これは「地元で生産されたものを地元で消費する」というシンプルながらも、深い意味を持つ言葉です。
消費者の安全・安心志向の高まりとともに、この地産地消の取り組みは、消費者と生産者の間の新しい関係を築くキーとなっています。
この取り組みは、環境保護、地域経済の活性化、食の安全・安心、そして地域の特色や文化の継承といった多岐にわたる利点があります。
つまり、食の新鮮さや安全性が保たれるだけでなく、地域の経済活性化や環境負荷の低減、食料自給率の向上など、多岐にわたるメリットが期待されます。
直売所は地産地消の取り組みを具体的に実現する場の一つとして注目されています。
生産者と消費者の結びつきを強める地産地消
「地産地消」は消費者と食・農とのつながりを深化させるための施策として、地産地消の推進が挙げられており、具体的には、消費者や食品関連事業者に国産農産物を選択してもらうための取り組みや、学校や病院などの施設での地場産食材の活用が進められています。
この取り組みを通じて、消費者は生産者との直接的な関係を築くことができ、地域の農産物や食品を購入する際の信頼感や安心感が増しています。
国や地方自治体も、この取り組みを積極的に支援し、地産地消の普及を進めています。
地産地消を通じた経済効果
地産地消の取り組みは、輸送コストの削減や食材の鮮度の保持、地場農産物のブランド力の向上など、多くのメリットをもたらしています。
特に、消費者と生産地の物理的な距離が短いことは、双方の心理的な距離も短くする要因となり、消費者の地場農産物への愛着や信頼感を深める効果があります。
直売所は地産地消の代名詞
直売所は、地産地消の取り組みの中で特に注目される存在です。
従来、直売所は地域の農産物を直接消費者に提供する場としての役割を果たしてきましたが、最近ではその役割が多様化しており、地域の特産品の加工品や、学校給食、外食産業、観光関係での地場農産物の利用など、直売所を通じた地産地消の取り組みは多岐にわたって展開されています。
地域コミュニティーの活性化
また、直売所は地域のコミュニティ形成の場としての側面も持っています。
消費者と生産者が直接顔を合わせることで、双方の信頼関係が築かれ、地域の絆が深まる効果が期待されています。
このようなコミュニケーションの場を提供する直売所は、地産地消の推進だけでなく、地域社会の活性化にも寄与しています。
求められる柔軟性
しかし、地産地消の取り組みには柔軟性が求められます。
地域ごとの特色やニーズに応じて、多様な取り組みが展開される必要があり、直売所はそれらの取り組みの中の一つの形態に過ぎません。
地産地消の真の意味は、地域の資源や特色を活かし、消費者と生産者が共に価値を感じる関係を築くことにあると言えるでしょう。
日本の食文化を守るという心意気
地産地消の取り組みは、日本の食文化や食生活を守るための重要な手段となっています。
地域の農産物を大切にし、その価値を再認識することで、日本の食の未来を守っていくことが期待されています。
六次産業化・地産地消法
この法律は、地産地消の推進を目的としています。
基本理念として、生産者と消費者の結びつきの強化、地域の活性化、豊かな食生活の実現、食育の一体的な推進、都市と農山漁村の共生、食料自給率の向上、環境への負荷の低減などが挙げられています。
また、国や地方公共団体が地産地消の取り組みを支援するための方針や計画の策定、必要な支援の実施などが定められています。
まとめ・直売所の魅力と未来
直売所は、日本の農業や食文化の発展にも大きく寄与しており、都市と農村をつなぎ、地域の魅力や特色を伝える場としても機能していることから、今後もさらなる発展が期待されます。
新鮮な農産物を求める消費者と、その農産物を提供する生産者が直売所を舞台に直接繋がることで、新しい価値や関係性が生まれ、都市と農村の交流の形を次元へとこれからも導いていくことでしょう。
しかし、この動きはまだ始まったばかりです。
今後、直売所がどのような役割を果たし、都市と農村の関係性をどう変えていくのか期待を込めて見守っていく必要があります。
このような取り組みを通じて、農産物や農村の魅力を再発見し、新しい食文化やライフスタイルを楽しむことができるようになってくるのだと言え、同時に直売所は都市と農村の関係性を再定義する重要な役割を果たしていることは紛れもない事実です。
これからの時代、直売所がどのような進化を遂げ、都市と農村の新たな関係性を築いていくのか、そして農村の魅力をどれだけ多くの人たちに浸透させていくのか、これからもその動きに注目していきたいと思います。
- この記事の監修者