広大な畑や田んぼなど、農業の現場において活躍するトラクター。
農作業で使用されている姿を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。しかし、実際にそのトラクターがどのような作業をしているのか、詳しく知っている方は少ないのではないでしょうか?
畑を耕しているだけなのか、それとも何か収穫しているのか、そもそもトラクターとは何に使うものなのか。名前は知っていたり見慣れてはいるけれど、あまり知られていないその役割を知ることで、農業の現場にある効率化の工夫が見えてきます。
この記事では、農業で使用されているトラクターは何に使うものなのか詳しく解説していきます。トラクターに関するよくある質問などもお答えしていますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
農業で使うトラクターとは何に使うの?

農業におけるトラクターは耕運・肥料まき・収穫・運搬・草刈りなどの多様な農作業を、効率的に行うことができる万能農機具です。
トラクターにさまざまなアタッチメントを取り付けることでその機能を発揮し、多岐にわたる農作業を一台でこなすことが可能となります。
例えば、ロータリーを装着すれば土を耕すことができ、播種機を取り付ければ種まきが行えます。また、ブームスプレーヤーを使用すれば広範囲にわたる消毒作業が効率的に行えます。さらに、ハンマーナイフモアを装着すれば、広大な農地の草刈りも短時間で済ませることができるでしょう。
このように、トラクターはアタッチメントを交換することで、さまざまな農作業に対応でき、時間がかかる作業も効率よく進めることができます。そのためトラクターは、現代の農作業において必要不可欠な存在となっています。
トラクターは公道を走れるの?

結論から言うとトラクターは、適切な条件を満たすことで公道を走行することが可能です。
農作業用に設計されたトラクターが公道を走行するには、法律で定められた保安基準や構造要件をクリアする必要があります。これには、灯火器類の装備・車両の寸法制限・安定性の確保・適切な運転免許の取得などが含まれます。
まず、トラクターが公道を走行するためには、道路配送車両法に基づく保安基準を満たす必要があります。例えば、ヘッドライトやウインカーなどの灯火器類が適切に装備され、他の交通から視認できることが求められます。 また、車両の幅が2.5mを超える場合には、道路管理者から特殊車両通行許可を得る必要があります。
また、全幅1.7m以下・全高2m以下・全長4.7m以下、かつ最高速度が15km/h以下のトラクターを運転する場合は、小型特殊免許や普通免許で運転可能です。しかし、これらの寸法や速度を一つでも超える場合は、大型特殊免許やけん引免許が必要となります。
[関連記事]
→トラクターで田んぼを耕す順序やコツは?深さ調節や速度
トラクターに関するよくある質問

農機具にはさまざまな種類があり、それぞれ特定の作業に特化しています。中でも「コンバイン」「田植え機」「耕運機」は、農作業の各工程で重要な役割を果たしています。以下では、これら農機具とトラクターの違いについて解説します。
・トラクターとコンバインの違い
トラクターはアタッチメントを装着することで、耕運・播種・施肥・収穫・運搬・草刈りなど多目的に使える「牽引型の万能農機具」です。必要な作業ごとにアタッチメントを取り替えることで、作業内容を柔軟に変えることができます。
一方、コンバインは「収穫作業に特化した農機具」であり、稲や麦などの穀物を刈り取り、同時に脱穀~選別までを一台でこなします。名前の「コンバイン」は英語の「Combine = 組み合わせる・一体化」に由来しており、複数の作業を一括で行える点が大きな特徴です。
トラクターは準備や管理など農業全体を支える存在であるのに対し、コンバインは収穫の場面でその力を発揮する専門機械なのです。
[関連記事]
→農機具のハーベスターとは?コンバインとの違いや選び方について
・トラクターと田植え機の違い
トラクターと田植え機はどちらも水田で見かけますが、その役割は大きく異なります。トラクターは、田植え前の準備段階である耕運や代かき、肥料の散布など幅広い作業に対応できる汎用性の高い農業機械です。
一方、田植え機はその名の通り「苗を植えることに特化した専用農機」であり、育苗した苗を水田に一定の間隔で自動的に植え付けていきます。田植え機は、1~8列植えなど規模に応じたタイプがあり、効率的かつ均一な田植え作業を行うことができます。
トラクターは農作業の下地を整える役割を担い、田植え機はその後の植え付け工程を担う、というように役割分担されています。
[関連記事]
→米農家必見!生産者向けのお米の品種10選
・トラクターと耕運機の違い
トラクターと耕運機は、どちらも「土を耕す」ために使われる農業機械ですが、規模や用途に大きな違いがあります。まず、トラクターはエンジン出力が高く、広大な畑や田んぼで複数の農作業をこなすための「大型汎用機」です。さまざまなアタッチメントを取り付けることで、耕運だけでなく整地・施肥・草刈りなど、幅広い作業を効率的に行うことが可能です。
一方、耕運機は家庭菜園や小規模農地での使用を想定してつくられており、サイズが小さく、操作も簡単です。歩行型で手押ししながら使用するものが多く、狭い畑や傾斜地でも扱いやすいのが特徴です。
耕運という共通の作業を担う機械ですが、扱う土地の広さや目的によって使い分ける必要があります。
[関連記事]
→手作業用の農具から大型機械まで、農業にかかわる道具一覧
トラクターの主要メーカーのご紹介
農業においてトラクターは欠かせない存在であり、国内外には多くの優れたメーカーが存在します。以下では、トラクターの主要なメーカーを8社取り上げ、それぞれの特徴をご紹介します。
1. クボタ(Kubota)
1890年創業のクボタは、日本を代表する農業機械メーカーであり、国内外で高いシェア率を誇ります。小型・中型トラクターのラインナップが豊富で、耐久性と操作性に優れています。
近年では、直進アシスト機能などの先進技術を搭載しており、初心者でも扱いやすいモデルが多いのが特徴です。 海外展開も積極的に行っており、アジアや北米、ヨーロッパなどで高い評価を得ています。
[関連記事]
→クボタトラクターの型式・年式、中古価格、買取りまで全一覧
2. ヤンマー(Yanmar)
ヤンマーは、ディーゼルエンジンの開発で知られる日本のメーカーで、農業機械分野でも高い技術力を持っています。トラクターは、燃費性能と耐久性に優れ、長時間の作業にも対応可能です。スマート作業への取り組みも積極的で、ICT技術を活用した製品開発を進めています。
3. イセキ(井関農機)
1926年創業のイセキは、国内でのシェア率が高く、水田向けのトラクターに強みがあります。コンパクトで操作性に優れたモデルが多いため、初心者や小規模農家に最適でしょう。田植え機やコンバインなどの製品も手がけており、総合的な産業機械メーカーとしての地位を確立しています。
4. 三菱マヒンドラ農機
三菱マヒンドラ農機は、三菱重工業とインドのマヒンドラ社の合弁会社で、国内外でトラクターの製造・販売を行なっています。小型トラクターのラインナップが豊富で、耐久性と安全性を重視した設計が特徴です。アフターサービスにも力を入れており、長期間安心して使用できる体制が整っています。
5. ジョンディア(John Deere)
アメリカのジョンディアは、世界最大級の農業機械メーカーであり、トラクターの性能と信頼性に定評があります。大型トラクターを中心に、高出力で高精度な作業が可能なモデルを多数展開しています。また、GPSや自動運転技術などの先進技術を積極的に導入しており、スマート産業をリードするメーカーとなっています。
6. ニューホランド(New Holland)
ニューホランドは、イタリアのCNHインダストリアル社のブランドで、世界各地でトラクターを展開しています。多様なモデルを取り揃えており、特に中型トラクターに強みがあります。操作性や快適性に優れた設計が特徴で、長時間の作業でも疲れにくいと評判です。
7. マッセイファーガソン(Massey Ferguson)
マッセイファーガソンは、アメリカのAGCO社のブランドで、世界中でトラクターを販売しています。 大型のトラクターは堅牢な構造と高い耐久性が特徴で、過酷な環境下でも安定した性能を発揮します。 また、シンプルな操作性とメンテナンスのしやすさも魅力の一つです。
8. フェント(Fendt)
ドイツのフェントは、高性能トラクターの代名詞とも言える存在です。高出力エンジンと最新の電子制御技術を搭載し、精密な作業を行うことができます。快適なキャビン設計やメンテナンスの少なさ、優れた燃費性能も特徴で、幅広い農家の方々から支持されています。
自分に合ったトラクターの選び方とは?

トラクター選びは、農作業の効率やコストに直結します。自分に合ったトラクターを選ぶためには、「作業内容と圃場に合った馬力」「使用頻度と燃費性能」「メーカーの信頼性」などの要素を総合的に考慮する必要があります。
・作業内容と圃場に合った馬力で選ぶ
トラクターの馬力は、作業内容や圃場に応じて適切なものを選ぶことが重要視されています。例えば、粘土質の圃場では25馬力以上、強粘土質の場合は30馬力以上が推奨されています。また、耕作面積が広い場合や、重いアタッチメントを使用する場合は、より高い馬力が必要になります。
逆に、小規模な農地や軽作業が中心の場合は、低馬力のトラクターでも十分対応可能です。 自分の作業内容と圃場の特性を把握し、それに見合った馬力のトラクターを選ぶことが、作業効率の向上につながります。
・使用頻度と燃費を考慮する
トラクターの使用頻度が高い場合、燃費性能も重要な選定基準となるでしょう。
エンジンの性能や車体の重量、アタッチメントの種類によって燃費は大きく変わります。例えば、30馬力級のトラクターで1時間アイドリング運転をすると、約0.7リットルの燃料を消費するという測定例があります。
また、PTO(動力取り出し装置)の適切な使用や、エンジンの回転数の調整によっても燃費を改善することが可能です。長期的な運用コストを抑えるためにも、燃費性能に優れたモデルを選ぶことが望ましいです。
・メーカーで選ぶ
トラクターは高価で長期間使用する機械のため、信頼性の高いメーカーを選ぶことも大切です。
国内メーカーであるクボタ・ヤンマー・イセキ・三菱マヒンドラ農機などは、日本の気候や土壌に適した設計がされており、部品供給や修理対応も充実しています。また、各メーカーによって得意とする分野や特徴が異なるため、自分の作業内容や圃場の条件に合ったメーカーを選ぶことが大切です。
まとめ
今回は、農業で使用されているトラクターは何に使うのか解説してきました。
農業で使われるトラクターは耕運・種まき・肥料まき・草刈り・収穫・運搬など多くの作業をこなす万能な農機です。アタッチメントを交換することで幅広い作業に対応でき、農作業の効率化が図れます。
トラクターは、適切な条件を満たせば公道で走らせることができます。灯火器の装備・車体サイズ・免許の種類などがポイントとなります。
自分に合ったトラクターを選ぶには、作業内容と圃場に適した馬力・使用頻度と燃費性能・信頼できるメーカー、これらを総合的に判断して選ぶことが大切です。