農業を続ける上で避けては通れないのが農機具の導入です。いざ農機具を購入しようと意気込んだ方の多くが、農機具の価格の高さに悩まされています。
トラクターやコンバインなどの農機具は、新品で数百万円以上することも珍しくなく、「こんなに高いの?」と驚く方も多いはずです。さらに、一度購入すれば終わりではなく、メンテナンスや消耗品の交換といった継続的な費用もかかってきます。近年では材料費や資材費が高騰していることから、効率化を実現するための農機具が、逆に経営を圧迫する要因になりかねません。
そんな状況の中で脚光を浴びているのが、中古農機具の存在です。農機具の中古市場は、新品とは異なる魅力があるようです。
この記事では、農機具はなぜ価格が高いのか、中古農機具が人気な理由などについて詳しく解説していきます。
- [目次]
◯農機具はなぜ価格が高い?

農機具の価格が高い背景には、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。特に注目すべきは、製造や販売の構造的な問題です。以下では、「大量生産が難しくコストが増加する」「販売体制による影響で価格競争が起きにくいため」「オンライン販売を推奨していないメーカーが多い」という3つの観点から、その理由を詳しく解説します。
1. 大量生産が難しくコストが増加する
農機具の価格が高くなる大きな理由の一つに、大量生産によるコストダウンが難しいという点にあります。農機具は自動車や家電のように一定のニーズがある製品と違い、需要はかなり限られています。また、地域や作物、農業の規模によって必要な機種が細かく異なるため、特定のモデルを大ロットで生産することが難しく、どうしても1台あたりの製造コストが高くなってしまいます。
現在、日本では農家の数が減少傾向にあり、製造側も多品種少量生産を強いられている現状です。さらに、農機具は耐久性や安全性において厳しい基準が求められるため、素材や部品の品質も高く、結果的に原価が上がりやすいです。
こうした背景から、農機具は高価格にならざるを得ないという構造的な課題を抱えています。
2. 販売体制による影響で価格競争が起きにくいため
農機具の販売は、特定のメーカーと契約した販売店(ディーラー)を通じて提供される仕組みが多く採用されています。この特約店制度は、販売地域を細かく区分けし、他地域のディーラーと直接競合しないようになっていることが一般的です。そのため、同一地域内で価格競争がほとんど起こらず、購入価格が下がりにくいという特徴があります。
さらに、購入後のメンテナンスや修理を原則として購入した販売店でしか受けられないというルールがある場合も多く、購入先の選択肢が限定されてしまいます。
これは農家にとって不利な条件でありながら、現実的には地域に密着したアフターサービスを確保するために必要とされてきた制度でもあります。しかし結果的に、自由な価格設定や割引競争が起きにくく、農機具の価格が高止まりしやすいという構造になってしまっています。
3. オンライン販売を推奨していないメーカーが多い
近年は多くの商品がインターネットを通じて購入される時代になりましたが、農機具の分野ではオンライン販売がなかなか普及していません。その理由のひとつに、メーカーが過度な価格競争の激化を避けたいという事情があります。
オンライン販売では、複数の販売業者が同一商品を価格で競い合う構造になりやすく、安さを武器にした販売戦略になりがちです。これにより、メーカー希望小売価格が機能しにくくなり、ブランド価値の低下や利益率の悪化を招くリスクが高まります。
また、価格ばかりが注目され、販売店による提案力やアフターサービスといった本来の価値が評価されにくくなる懸念もあります。特に農機具は高額で長期使用が前提の製品であるため、販売後のサポートが重要視されています。
これらのことから、多くのメーカーはあえてオンライン販売を推奨していません。
◯中古農機具が人気の理由

中古の農機具は多くの農家や新規就農者から人気を集めています。中古の農機具が人気になる背景には、経済的なメリットや耐久性など、さまざまな理由があります。以下では、主な理由を3つ挙げてご紹介します。
・新品に比べて手頃な価格で手に入れられる
農機具は新品で購入しようとすると高額なお金が必要になりますが、中古品であれば同等の機能を持つ農機具をより低価格で手に入れることが可能になります。
近年では、新規就農者や小規模農家にとっては、初期費用を抑える手段として中古農機具の選択が増えています。中古市場では状態の良い農機具が新品の半額以下で販売されていることもあり、コストパフォーマンスに優れています。また、使用頻度が少ない農機具であれば、中古品でも十分に機能を果たせるため、出費を抑えることが可能です。
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・耐久性が高いため問題なく使える
日本製の農機具は耐久性に優れていることで知られており、適切なメンテナンスを行えば長期間使用することが可能です。そのため、中古であっても十分に使用することができ、コストパフォーマンスに優れています。
特にディーゼルエンジンを搭載した機械は耐久性が高く、長時間の作業にも耐えることができます。また、中古農機具は整備や点検が行われた状態で販売されることが多く、購入後すぐに使用できる点も魅力の一つです。
・多様な選択肢から自分に合った機械を選べる
中古市場には、さまざまなメーカーやモデルの農機具が出回っており、自分の農業スタイルや作業内容に合った機械を選ぶことができます。これにより、自分に必要な機能を備えた機械を効率的に導入することが可能です。
また中古市場では、廃盤となったモデルや特定の機能を持つ機械と出会えることもあり、個々のニーズに応じた選択が可能です。
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◯日本の農機具メーカーの国内での需要について

日本の農機具メーカーは、国内市場において重要な役割を果たしています。その背景には、農業従事者の高齢化や減少といった課題があり、これらに対応するためのスマート産業技術の導入が進められています。
近年、トラクターやコンバイン、田植え機などの主要な農機具の需要が特に増加しており、農作業の効率化や省力化に大きく貢献しています。最近では、GPSやAIを活用した自動運転技術の導入により、作業の精度向上や労働負担の軽減が図られています。
さらに、環境への配慮や持続可能な農業の実現に向けて、電動トラクターや省エネルギー型の農機具の開発も進められています。そのため、農業の生産性向上と同時に、環境負荷の低減も期待されています。
日本の農機具メーカーは、国内の農業が直面する課題に対応しつつ、効率的で持続可能な農業の実現に向けた製品や技術の提供を続けています。
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◯中古農機具を選ぶ際のコツについて

中古の農機具を選ぶ際には、価格の安さだけでなく、長期的に使用することを見据えて選ぶことが大切です。以下では、中古農機具を選ぶ際の3つのコツについてご紹介します。
1. 使用目的に合った馬力と機能を備えているか
農機具選びでは、新品・中古に関わらず、使用目的や作業内容に適した馬力や機能を備えているかを確認することが最も大切です。
農機具は圃場の広さや作業内容に応じて適切な馬力を選定する必要があり、馬力が不足すると作業効率が低下してしまいます。逆に、過剰な馬力は燃費の悪化やコスト増に繋がる可能性があります。また、必要なアタッチメントに対応しているか、操作性や安全性が確保されているかも確認しましょう。後から機能を追加することは難しいため、購入前に必要な機能が備わっているかを確認することが大切です。
2. 年式と稼働時間を確認する
中古農機具の寿命や今後のメンテナンスコストを予測するためには、年式と稼働時間の確認が欠かせません。年式は、メーカーの公式サイトや型式から調べることができます。稼働時間はアワーメーターで確認でき、一般的に1,000時間を超えると故障リスクが高まるとされています。
ただし、使用環境やメンテナンス頻度によっても異なるため、全体的な状態を見て、総合的に判断する必要があるでしょう。
3. 整備履歴や修理履歴を確認する
中古農機具の購入前には、整備や修理の履歴を確認し、過去にどのようなメンテナンスが行われてきたかを把握しましょう。整備履歴が明確であれば、機械の状態を判断する材料となります。
個人売買の場合は、メンテナンス履歴を確認するのが難しいことがありますが、できるだけ前オーナーとのコミュニケーションを取って、使用状況やメンテナンスの実情を確認しましょう。
◯まとめ
今回は、農機具はなぜ価格が高いのか、中古農機具が人気な理由などについて解説してきました。
農機具の価格が高くなる理由としては、大量生産が難しく製造コストが上がることや、販売体制により価格競争が起きにくい構造、さらにオンライン販売を推奨しないメーカーが多いことが挙げられます。
一方、中古農機具は価格が手頃で耐久性も高く、選択肢も豊富なことから、多くの農家や新規就農者から支持されています。コストパフォーマンスを重視する場合は、中古農機具を導入することが推奨されるでしょう。
中古農機具を選ぶ際のコツとしては、使用目的に合った馬力や機能の確認・年式と稼働時間の確認・整備履歴や修理履歴の確認を行うことが挙げられます。これらを行うことで、中古であっても長期的に使用することが可能です。