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日本の農業界は、高齢化の波に直面しており、農村の多くはその影響から過疎化に頭を悩ませており、後継者不足が大きな課題となっています。
その一方では農業ビジネスが話題になっており、法改正も進み、新規参入がしやすくなり、多くの若者や企業までもが参入するようになってきました。
この高齢化によって、就農人口の減少というマイナス面は確かにあるのですが、新たな可能性や次世代への希望が隠されているのかもしれません。
今回は、高齢化が農業に与える影響と、その中で次世代が担うべき役割について考察してみたいと思います。
日本農業の高齢化の影響は?未来にもたらすと課題とチャンス
日本の農業は、多くの経験豊富な高齢者に支えられてきました。彼らは長い年月をかけて培った技術や知識、そして土地との深い結びつきを持っています。
しかし、その一方で農村では、新しい技術やアイディアを取り入れる若手の力が求められています。高齢化が進む中、どのような課題やチャンスが生まれているのでしょうか。
課題1 継承の難しさ
多くの農村でも問題になっている後継者不足については、政府も数々の対策を行なってきましたが、未だに有効な解決策が見つかっておらず、ずいぶん前から指摘されていた問題にもかかわらず、一向に改善されていません。
その結果、個人で経営する「基幹的農業従事者」は減少を続けており、その数は2015年には175万7千人だったのが、2020年は約40万人減少し、136万3千人にまで減りました。5年間で22%減になります。
15年前の2005年には224万1千人の基幹的農業従事者がいたので、それと比べると39%減少し平均年齢も上がり続けてます。
そのため、伝統的な技術や知識を次世代に伝えることの難しさを感じている農家も少なくありません。
とりわけ地方にある小規模な農家では、子供たちが都市部へと移住し、農業を継ぐ者がいないという現状が目立っています。
このような状況が続くと、日本の伝統的な農業や地域の特色を持った農産物が失われる恐れがあります。農家の減少が起こる原因は年々離農する一方、新規就農者が期待値を下回っていることが指摘されています。
離農者の数が増えるのは自然なこと?
就農人口が2015年から5年間で約40万人減少しているというデータは、産業構造の変化によって機械化が起こり、人手が必要無くなったことに他ならず、むしろ減るのが当然で自然な流れであると見る人もいます。
1960年には約1200万人の農業従事者がいました。
当時は耕運機が普及しておらず、牛馬を使って耕していたし、ほとんどの作業を手作業で行っていたのです。
現在は機械化が進み、特に田植えの工程では労働生産性が大幅に上がっています。
そのため、農業従事者が減少して他の産業に移るのは自然な流れであるという指摘もあります。
課題2 高齢化による離農と新規就農者の定着
新規就農者が生まれても、離農者の数が上回っている現状がそのままでは、農業の担い手は減る一方という現状は変わりません。
また、それによって高齢化が進み、農作業の負担が増大し、重労働となる一部の農業は、高齢者には難しく、不可能になるため、その結果、生産量の減少や品質の低下への懸念が生じ、また休耕田の増加も無視できません。
ただせっかく新規に就農したとしても、農業経営が軌道に乗らなかったり、地域に馴染めず、数年で農業をやめるケースも少なくありません。
新規就農者数を確保し、長期で続けられるよう地域全体で新規就農者をサポートしつつ、コミュニティにも馴染みやすい環境づくりに努めることが重要です。
チャンス1 新しい技術の導入
農村で高齢化が進む一方で、新しい農業技術やシステムの導入は、農業の新たな可 能性を秘めています。
老舗メーカーから新進気鋭のベンチャーまで、多くの企業から優れた商品やサービスが続々と開発されており、 これらは担い手の減少にも対応し、適切な栽培管理による高品質化や収量増も期待できるため、作業の一部分からでも導入を検討するとよいとされています。
話題のドローンを使用した農薬の散布や、アシストスーツによる体への負担軽減、トラクターの自動操舵など、少ない人数や負担で、作物をより多く栽培するための技術開発は、日進月歩で進んでいます。
またAIを使った自動水管理システムによる給排水の制御、IoT:Internet of Things(モノのインターネット)など、先端技術を取り入れた農作業の自動化及び効率化を推し進めた、新たな農業技術「スマート農業」を導入し、収穫の最適化や農業の省力化を実現するなど、テクノロジーの進化は農業の効率化や生産性の向上に大きく寄与しています。
チャンス2 伝統と革新で農業の未来を変える?
さらに、次世代の農家や若手研究者たちが、新しい技術やアイディアを持ち込むことで、伝統的な農業の方法に革命をもたらす可能性があります。
例えば、都市部での縦型農業や、環境に優しい持続可能な農業方法の導入など、新しいアイディアが農業界に新しい風を吹き込んでいます。
このような新しい技術やアイディアの導入は、高齢化が進む中での農業の持続可能性を高めるだけでなく、新しい市場やビジネスチャンスを生み出す可能性も秘めています。
総じて、高齢化がもたらす農業の現状は、多くの課題を抱えつつも、新しいチャンスや可能性に満ちています。伝統と革新が融合することで、日本の農業は新たなステージへと進化していくことでしょう。
農業の高齢化の影響を防げるのか?次世代の活躍は未来への希望
日本の農業は、高齢化の影響を受けつつも、次世代が担う新しい動きや取り組みが増えてきました。
若い世代が農業に参入することで、新しい価値観や技術、そしてビジョンが生まれています。
次世代が担う農業の未来には、どのような展望が待っているのでしょうか。
都市部からの移住と新しい農業スタイル
最近のトレンドとして、都市部でのキャリアを持っていた若者が地方の農村に移住し、農業を始める動きが見られます。彼らは、都市での経験や知識を活かし、新しい農業スタイルを築き上げています。
例えば、IT技術を活用した農業経営や、ブランディングを重視した特産品の開発など、従来の農業とは一線を画す取り組みが行われています。
教育と研究の進化
次世代の農業者たちは、専門的な教育や研究を受けることで、農業の専門知識を深めています。
大学や研究機関での農業に関する研究は、新しい品種の開発や環境に優しい農業技術の確立など、次世代の農業の発展を支える重要な役割を果たしています。
また、農業スクールや研修プログラムを通じて、実践的な技術や経営ノウハウを学ぶ若者も増えています。
コミュニティとの連携
次世代の農業者たちは、地域コミュニティとの連携を深めることで、農業の持続可能性を高めています。 地域住民との協力によるイベントの開催や、農産物の直売所の設置など、地域との絆を深める取り組みが行われています。 これにより、農業が地域の活性化や地域づくりに貢献する役割を果たすようになっています。
結論として、次世代が担う農業の未来は、新しい価値観や技術、そして地域との連携によって、より持続可能で魅力的なものとなっています。 これからの日本の農業は、次世代の力を最大限に活用し、新たな可能性を追求していくことが期待されます。
農地バンクを活用し、経営を大規模化する
日本国内では農業従事者たちの高齢化に伴う担い手の不足に対応し、作業効率化やコストダウンのための策として、農地の集約や経営体の大規模化が進んでいます。
「不要な農地を貸し出したい」と思っている農家さんから都道府県の第3セクター「農地中間管理機構」が一度農地を借り受け、「農地を借してほしい」と思っている人に転貸する公的制度で、高い信頼性と農地の持ち主の税が優遇される魅力的なシステムです。
この制度を利用すれば、土地を持っていなくてもまとまった農地を借りて農業を行うことができますし、すでに農業を行なっている方々もその規模を拡大でき、多角的な農業を展開できるとともに、大型の機械や生育管理のシステムを導入すれば、農作業が効率化されます。
すると、大幅な収量の増化を実現させることができる可能性があり、収入の向上にもつなげることができる可能性があります。
もし近隣に耕作放棄地があれば、集約することで農地の有効活用につながり、一石二鳥です。
また、法人化することによって税金対策や融資を受けやすくなったりするメリットも魅力的です。 新しい人材が集まってくることにもつながる可能性があり、地域の活性化に農業が一役買っている一面もあるので、この制度の浸透が望まれます。
山間地の集落営農を検討
山間地などでは小さな農地が点在していることが多く、大規模化は難しいかもしれません。
その場合は、集落単位での共同作業をしたり、農地の経営を分担する「集落営農」が有効です。
そうすることで、個人では難しい耕作や管理も地域ぐるみで実行でき、人手の確保や作業の分担ができると同時に、設備や農機具を共有したり、耕作放棄地の有効活用などにもつながり、農業の新しい形として注目されている組織のスタイルの一つです。
集落営農には大きく分けて3つのスタイルがあります。
- 共同利用型:このスタイルでは、参加する農家間で農業機械や施設を共有します。各農家が使用するタイミングを調整し、効率的に資源を活用します。
- 作業受託型:ここでは、中心となる農家や管理者が主導して、機械や施設を使用した作業を行います。他の農家は、この中心となる農家をサポートする形で作業を進めます。
- 協業経営型:このスタイルは、各農家の得意なスキルや経験に基づいて作業を分担します。例えば、体力が必要な作業は若手が、経験や知識が求められる作業はベテランが担当するなど、効率的な役割分担が行われます。
集落営農を始める際には、参加する農家の意向や希望、栽培する作物の特性などを考慮して、最も適したスタイルを選択することが大切です。
集落全体での協力と協調が鍵となり、新しい農業の形を築いていく可能性が広がっています。
このように、農業が活発になっていけば、地域全体が活性化し、他の産業との連携も可能になります。
その上で法人化すれば、社会的信頼が高まり、地域の特色の一つとしてのブランド化や6次産業への取り組みにもつなげられる可能性が広がります。
成功事例について見てみましょう。
農業の高齢化の影響を防ぐにはブランド化が鍵
持続可能な農業経営を実現するには、大規模化での効率的な収量増加のほか、小規模での作物のブランド化による単価向上が必要です。
以下、ブランド新戦略のポイントをまとめてみました。
農作物ブランド化の新戦略:品質とプロモーション
持続可能な農業経営を目指す中で、農作物のブランド化は注目される戦略の一つです。 大規模な生産での収量増加だけでなく、小規模でも高い付加価値を持たせることで、農産物の単価を引き上げることが可能です。
地域の特色や、特定の作物に適した環境を持つ場所では、SNSや専用のウェブサイト、オリジナルのパッケージやロゴを駆使して、その特徴をアピールすることが推奨されており、このような取り組みは、他の産地や商品との差別化を生み出し、ブランド価値の向上に寄与します。
さらに、マルシェや展示会への参加など、継続的な広報活動を行うことで、その評価は国際的なものとなることもあり、実際にこのような地道な活動が実を結んで、海外のレストランでも取り扱われる茨城県の野口農園の高級レンコンのような成功例も出てきます。
自らの農産物に対する自信と、その価値を伝えるための積極的な戦略が、ブランド化の成功に繋がるということです。
農作物ブランド化の新戦略:6次産業化の力
農産物のブランド化は、今や多くの農家が取り組む重要な戦略の一つとなっており、その中でも注目されるのが「6次産業化」というアプローチです。
これは、農業、製造、そして販売の3つの産業を組み合わせた新しいビジネスモデルを指します。
単なる農産物としての販売では他の商品との差別化が難しい場合でも、埼玉県熊谷市の「TATA GREEN株式会社」がプロデュースする「さつまいもプリン」のように6次産業化を進めることで、独自のブランドを築き上げ、売り上げの向上が期待できます。
農作物ブランド化の新戦略がもたらす未来
日本の農業界は、多くの課題を抱えているものの、新しいアイディアや戦略を持った若手農家が増えてきています。
農業は、自由で創造的な職業としての魅力を持っていますが、軌道に乗せるまではかなりの努力が求められます。
困難を乗り越え、地域と共に新しい価値を創出することが、今後の農業の鍵となるでしょう。
農業の高齢化の波に変革が及ぼす影響とイノベーション
歴史を振り返ると、技術の進化とともに人間の文明は大きな変革がもたらされてきましたが、過去の歴史を紐解くと、農業においてもこれまで様々な変革がありました。
そして、それは現代の農業にも言えることです。
今、私たちの目の前で、技術とイノベーションが農業の未来を形作っています。
では、具体的にはどのような技術が農業を変えつつあるのでしょうか。
AIとロボティクスの進化
人工知能(AI)とロボティクス技術の進化は、農業の効率化と生産性の向上に大きく 貢献しています。
例えば、ドローンを使用して農地の状態をリアルタイムでモニタリングしたり、AIを活用して最適な収穫時期を予測するなど、これまでの経験や勘に頼っていた部分が科学的な判断に置き換わりつつあります。
環境技術の導入
持続可能な農業を実現するための環境技術の導入も進められています。
水資源の有効活用を目指したスマート農業や、太陽光を利用したエネルギー供給システム、さらには土壌の健康を維持するための有機的な農法など、環境との調和を図りながらの農業経営が注目されています。
バイオテクノロジーの応用
バイオテクノロジーの進展は、農作物の品種改良や病害虫の管理に革命をもたらしています。遺伝子組み換え技術やRISPRなどの最新の技術を活用することで、より多くの収穫を得ることができる耐病性や高収量の新品種が開発されています。
結論として、技術とイノベーションは、農業の持続可能性や生産性の向上、さらには新しい価値の創出に不可欠な要素となっています。
これらの技術がもたらす変革を受け入れ、適切に活用することで、日本の農業は新たな時代を迎えることができるでしょう。
私たち一人ひとりが、この変革を理解し、支えていくことが求められています。
まとめ・農業ビジネスが高齢化を克服するための課題と影響
農業は、私たちの食生活の基盤となる産業ですが、高齢化に伴って人数は縮小傾向にあり、同時にビジネスとしての位置づけは、まだ確立されていないと言えます。
多くの産業がビジネスモデルを変革し、国内外の市場での競争を繰り広げている中、農業界はその変革のスピードが遅れているのが現状です。
多くの製造業が国際的な視野を持ち、海外展開や生産のグローバル化を進めているのに対し、農業はそのステップを踏み出すのが難しいとされています。
単に作物を生産し、市場に供給するだけでは、天候や災害などのリスクも伴い、ビジネスとしての成長は限定的なのは明らかです。
単なる生産だけでなく、付加価値を持った商品の提供や、新しい販売チャネルの開拓、さらには事業の多角化を図ることが求められ、そうやって成功する農業ビジネスが生まれることは、就農人口の減少に歯止めをかけ、日本の農業を守る大きなポイントとなります。
農業の未来を担う若い農家や起業家たちは、単に既存の方法に固執するのではなく、新しいビジネスモデルの構築や、持続可能な農業経営のデザインに挑戦する必要があります。
このような革新的な取り組みが、農業の新しい時代を切り開く鍵となり、志を持った若者が新しく農業に挑戦できる環境をどう整えるかが大きな課題となるでしょう。
- この記事の監修者